ライター・まつぼっくりをアマチュア初段にする企画。まずはまつぼっくりが指した将棋を解説して、強みと弱点を探ってみたい。
ライター・まつぼっくりが書いた記事はこちら。
まつぼっくりは将棋ウォーズ1級で指している。将棋ウォーズで指した将棋を使わせていただいた。
初手から。
まつぼっくりは後手。居飛車党だ。級位者のころは得意戦法を見つけることが強くなる一番の近道になる。いろんな戦法を指して、自分に合う合わないを見つけるのも大切だが、「これ指したい!」という戦法が決まったら、ひたすら指すのがおすすめだ。
相手は四間飛車から美濃囲いにしてきた。四間飛車も美濃囲いも、ずっと人気のある作戦だ。後手は見慣れない囲いだが、ソフトの影響で出てきた「エルモ囲い」という囲いだ。コンピューターソフトの「elmo」が多用したことに由来している。
四間飛車対エルモ囲いのテーマ図。
このような格好がエルモ囲いの完成形になる。振り飛車が▲78銀で待機するか、▲67銀と上がるかで、展開が変わる。エルモ囲いの特徴は△31金と△51金で、長所も短所もある。
図は▲11角成とした局面だが、こうしたとき従来の舟囲いだと次に▲12飛や▲22金が厳しい。こうなると一回受ける必要がある。
次にエルモ囲いの場合は、▲11角成とされたとき△31金のおかげで22の地点がカバーされている。次に▲12飛とされても△22銀あるいは△41玉で大丈夫だ。また、△51金で離れ駒をなくして横からの飛車の攻めにも対応できるようにしている。しかし、63の地点が薄いというデメリットもある。エルモに囲った後の攻め方にはバリエーションがある。△64銀からの右銀急戦、右四間飛車とエルモ囲いを組み合わせる指し方などなど。エルモ囲いだけでも多くの本がある。
△75歩▲同歩△64銀。
進んで、先手▲36歩とついた局面。もう一手△51金と囲う手もあったが、積極的に仕掛けていった。「開戦は歩の突き捨てから」という格言通り、△75歩▲同歩△64銀と仕掛けた。単に△64銀もあったが、四間飛車を生かして▲65歩を嫌ったか。
対して振り飛車は▲65歩と反撃をしてきた。
△53銀▲47金。
△53銀が弱気の一手。一歩損して銀を引かされては作戦失敗だ。駒をとにかく前進することから考える。前に行く手から読んで、それでもダメなら最後に引こう。単に△64銀は▲65歩で追い返されたが、△75歩▲同歩を入れた効果で、△77角成▲同銀△75銀とスムーズに銀が出れる。棒銀は銀が五段目に進出したら成功は一つの目安になる。
▲65歩には、△77角成▲同銀△75銀が勝った。△77角成とせずに△75銀も考えられるが、▲22角成△同玉▲76歩△同銀▲64歩と捌かれるのが気になる。▲76歩に△86歩も▲同歩△同銀▲64歩で、後手の銀が重い感じだ。
△77角成▲同銀△75銀なら▲76歩に△86歩として、▲75歩は△87歩成▲66銀△78と、として飛車が成り込める上に桂馬と香車が取れそうで、損して得取れる。
△86歩に▲同歩は△同銀で今度は銀交換ができそう。以下▲64歩△77銀成▲同桂△64歩▲同飛△62歩の局面は、お互いに飛車角銀が捌けていて、いい勝負。
ただ後手としては▲64同飛が金に当たるのが気になる。このとき、△51金の一手が大きい。先に攻めたにもかかわらず後手を引いているので、やや不満だ。
やはり仕掛けは万全の体制で仕掛けたい。仕掛けるときはもう一度自陣を見て、「仕掛ける前に離れ駒をなくす」を心がけると勝率がぐっと上がると思う。
△53銀と引いてからは苦しい将棋だったと思う。しかし、悪いながらも懸命に手を探して盛り返してきた。
直前の△42銀は玉を固めつつ、次に△86飛を狙った手で味がいい。
まずは形勢判断してみよう。
玉の固さは先手。駒の損得は、後手の飛車銀交換で駒得。しかし駒の効率は、先手の駒が全部使えているのに対して後手は△83飛と△61金が働いていない。手番は後手。中盤戦で手番のポイントは低いので、トータルはやや先手か。
本譜は△75歩として桂頭を狙ったが、悠長だった。先手から▲35歩と桂頭を攻められ、玉側の桂馬の方が価値が高い。
ここは△79飛▲35歩△67角と49の金を狙いつつ、桂頭をカバーすれば綾があった。中盤戦の終わりから終盤にかけては、「いかに早く相手玉に迫るか」、というスピード勝負になる。距離感を図るのは難しいが、とにかく相手玉にプレッシャーのかかる手を指すことを意識してほしい。
棋譜並べ用
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【まとめ】
一局をざっと見てきたが、仕掛けから中盤の入り口での指し方に課題が残る。序盤はしっかりした駒組だった。終盤はとりあえず置いておいて良さそう。終盤は勝ち切る技術と悪い局面を粘る技術はまったく別物になる。△75歩▲同歩△64銀のような仕掛けのセンスがあるが、その後は元気よく攻めることが大切だ。ひたすら攻め方を覚えるのがよい。
棋譜並べと詰将棋は昔からある勉強法だが、棋譜並べをひたすら並べるだけで強くなる余地がまだまだありそう。そのときは好きな棋士の棋譜だけを並べるのではなく、将棋年鑑など多くの棋士の棋譜が載っている本を並べるのがおすすめだ。好きな棋風の棋士を見つけるのはもう少し先でよい。
アマチュア五、六段になると一局に10分から15分くらいかけて「どうしてこう指したか」という考える勉強法が求められるが、アマチュア1級、初段の頃は、ただただひたすら、1局の棋譜並べを7,8分で終わらせるのがおすすめだ。その将棋を覚えているかどうかは重要ではない。いい手を指に覚えさせるのが大切だ。その手の感触を確かめてほしい。棋譜並べを毎日10局1カ月続けるだけで、実感するほどの効果は出るだろう。