奨励会1級のときに指した将棋を紹介します。この局面は角換わりの終盤戦で、相手に▲54歩と打たれたところ。駒の損得、玉の固さ、駒の効率いずれもバランスを取れているので、良い勝負だろう。先手の攻めが急所に刺さっているようだが、しっかり対応すれば大丈夫だ。

△62金▲53歩成△同金▲51銀△同玉▲73馬△42玉▲82馬。

▲54歩に△54同歩と取るのは53の地点に打ち込むスペースができるのでいかにも危険で、▲53金△31玉▲43銀と上から押さえ込まれてしまって良くない。ここは△62金と53の地点を守りつつ馬に当てるのが正しい対応。そこで▲53歩成△同金までは進むが、次の▲51銀がやりすぎで、▲73馬とおとなしく桂を補充しつつ飛車取りにするのが優った。後ほど解説する。▲51銀に△同玉と取り、そこで▲53馬と金を取るのは△42金がしぶとい受けで後手良し。本譜は▲73馬と王手飛車取りをかけたが、△42玉▲82馬の瞬間は後手玉が安全で、持ち駒を沢山持っているため、先手玉を仕留めるチャンスだ。どうやって迫るべきか。

△45桂▲48玉△57歩▲72飛△52銀▲71馬△37角。

△45桂~△57歩としたが、ここは△36銀鋭い一手で優った。▲同玉は△45角が王手金取りで、▲46玉は△67角成、▲26玉は△34桂▲17玉△26銀で寄り。△36銀に対して▲48玉と逃げるのは、△55桂▲57金△56歩で明快に後手勝ちだった。本譜の△45桂~△57歩はより小さい駒で迫ることができて効率良さそうに思えたが、▲72飛とされて、△52歩で良い所を、△52銀で受けなければならないため微妙だった。そこで▲71馬が次に▲53馬切りからの詰めろをかけつつ馬を活用する一手で味が良い。これに対して△63銀打と飛車取りにしつつ詰めろを受ける手が見えるが、▲62飛成とかわされてみると持ち駒が角だけになってしまい攻めがかなり細くなってしまう。本譜は△37角で勝負。

▲38玉△55角成▲46桂△36歩。

▲38玉と逃げたがこの手が大悪手で、△55角成が詰めろ逃れの詰めろとなり勝負あり。▲46桂と詰めろを受けたが、△36歩が厳しい垂らしとなり、以下は押し切った。△37角に対して▲49玉と逃げられていたら激戦が続いていた。以下△58銀▲39玉△38歩▲同玉△55角成▲46桂まで進むが、ここで△36歩は詰めろにならないために▲54歩で一手負けしてしまう。△67銀成が金を補充しながら詰めろとなるため後手勝ちそうだが、▲27玉がしぶとく大変。ここで詰めろがかかりにくいので、むしろ先手が勝ちやすいだろう。

最後に悪手を指した方が負けるのが将棋。局面が複雑になればなるほどどっちに転ぶかは分からない。先手としては▲51銀が将棋の難易度を上げてしまう一手で良くなかっただろう。では、▲51銀に代えて▲73馬ならどうなっていたか見てみよう。

▲73馬△78角▲68銀△45桂▲27玉△36歩▲38歩△52飛▲74馬△63銀▲56馬。

▲73馬に対して後手の指し手が難しい。△52飛と逃げるのは▲54歩△同飛▲74馬と先手先手で攻められてまずいし、△92飛と逃げるのは▲51銀△31玉▲54歩が厳しい攻め。△54同金は▲63馬が詰めろ金取りだし、△52金は▲64馬が絶好。よって、▲73馬に対して飛車を逃げると悪くなってしまうのだが、ここで攻めに転換するのは後手としては難易度がかなり高い。攻めるとしてもどこから手を付ければ良いのかもパッと見では分からないため実戦でこの局面を迎えていたらかなり苦戦していただろう。均衡を保つ一手は△78角。玉から離れた金を狙うのは微妙に思えるが、△78角▲68銀の交換を入れることで、△45桂に対して▲48玉から左辺に逃げられる展開を防いでいる。よって△45桂には▲27玉になるが、△36歩▲38歩を入れてから△52飛がうまい手順で、先手の持ち歩が無くなったので▲54歩と叩かれなくなっている。

ここまでやってなんとかバランスを取ることができるのだから後手は大変。相手に難しい選択を突き付けるのが勝負に勝つコツである。実戦で▲73馬と指されていたらすぐ悪手を指したに違いない笑

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